都市で育つ新しい農業「バーティカルファーミング」
バーティカルファーミングとは?
「バーティカルファーミング(Vertical Farming)」とは、建物の内部や都市空間で、作物を上下に積み重ねて栽培する農業のことです。日本語では「垂直農業」や「植物工場」とも呼ばれ、LED照明や水耕栽培、環境制御技術を組み合わせて、安定的に野菜などを生産します。
従来の農業は、広い土地と天候に大きく依存してきました。一方、バーティカルファーミングでは、温度・湿度・光・栄養を人工的に管理することで、季節や気候に左右されずに作物を育てることができます。都市部のビルや倉庫、地下空間など、これまで農地として使われなかった場所を活用できる点も大きな特徴です。
主に栽培されているのは、レタスやベビーリーフ、ハーブ類などの葉物野菜ですが、近年ではイチゴやトマト、薬用植物への応用も進んでいます。農薬の使用を最小限に抑えられるため、安全性や品質の安定性が高いことも評価されています。
バーティカルファーミングは、「農業=郊外や農村」という固定観念を覆し、都市の中で食料を生み出す新しい仕組みとして広がり始めています。
(引用:自然電力)
なぜバーティカルファーミングが注目されるのか?
この農業手法が注目される背景には、世界的な人口増加と都市化、そして気候変動があります。
2050年には世界人口の約7割が都市に住むと予測されており、都市部での食料供給をどう確保するかが大きな課題となっています。輸送距離が長くなればなるほど、CO₂排出や食品ロスのリスクも高まります。
バーティカルファーミングは、消費地の近くで生産する「地産地消型」の農業を実現します。これにより、輸送に伴う環境負荷を減らし、鮮度の高い野菜を安定的に供給できます。
また、水の使用量が少ない点も重要です。水耕栽培では、従来の露地栽培と比べて使用水量を大幅に削減でき、限られた水資源を有効に使えます。
さらに、異常気象への強さも見逃せません。干ばつや豪雨、猛暑といった気候リスクが高まる中で、屋内栽培は安定した収穫を可能にします。農業が抱える不確実性を減らし、食料供給のレジリエンスを高める役割を担っています。
もちろん、課題もあります。照明や空調に電力を使うため、エネルギー効率が重要になります。しかし、再生可能エネルギーの活用や省エネ技術の進化によって、環境負荷を抑えた運営が可能になりつつあります。
バーティカルファーミングは、課題と可能性の両方を併せ持つ、次世代農業の代表例と言えるでしょう。

(引用:サイエンスポータルアジアパシフィック)
世界と日本の取り組み
世界では、バーティカルファーミングへの投資と実証が急速に進んでいます。
アメリカでは、都市近郊に大規模な屋内農場を設け、AIを活用して生育データを管理する企業が登場しています。ヨーロッパでも、空き倉庫や地下施設を活用した都市型農業が広がり、地域の雇用創出にもつながっています。
アジアでは、シンガポールが代表的な事例です。国土が限られ、食料自給率が低い同国では、垂直農業を国家戦略として推進しています。高層型の農場やビル屋上での栽培により、都市の中で食料生産を拡大しています。

(引用:the Green Cloister)
日本でも、バーティカルファーミングは着実に広がっています。食品メーカーや電機メーカーが参入し、LED技術や制御技術を生かした高効率な植物工場を運営しています。
災害時の食料供給拠点としての活用や、学校や研究施設と連携した教育目的の導入も進んでいます。
また、地方では廃校や使われなくなった工場を活用する例もあり、地域活性化の一手として期待されています。農業の担い手不足が深刻化する中で、省人化・自動化が可能なバーティカルファーミングは、新しい働き方を生み出す存在にもなっています。
私たちにできること。都市農業を支える選択
バーティカルファーミングは、消費者の選択とも密接につながっています。
都市型農場で育てられた野菜を選ぶことは、輸送距離の短縮や食品ロス削減を後押しする行動になります。最近では、スーパーや飲食店で「屋内栽培」「植物工場産」と表示された野菜を見かける機会も増えてきました。
また、家庭での小型水耕栽培キットや室内菜園も、バーティカルファーミングの考え方を身近に体験できる手段です。自分で育てることで、食と環境のつながりを実感できます。
自治体や企業が行う実証プロジェクトに関心を持つことも大切です。都市でどのように食料をつくるのかという議論は、これからの街づくりそのものと関係しています。
食を支える仕組みを理解し、応援することが、持続可能な農業の土台を広げます。
都市で育てる未来の食
バーティカルファーミングは、限られた資源の中で、いかに効率よく、安定して食料を生み出すかという問いへの一つの答えです。
自然から切り離された農業のように見えるかもしれませんが、その目的は自然を守ることにあります。土地や水への負荷を減らし、気候変動の影響を受けにくい生産を実現する。その先に、持続可能な食の未来があります。
都市で野菜が育つ風景は、かつては想像の世界でした。しかし今、それは現実になりつつあります。私たちが何を選び、どう支えるかによって、この新しい農業はさらに進化していくでしょう。
食の未来は、畑だけでなく、街の中にも広がっています。バーティカルファーミングはその象徴的な存在といえます。
KENNY
Kenny
Webライター
名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。
