植物が変える食の未来。プラントベース食品という選択
プラントベース食品とは何か?
「プラントベース食品」とは、植物由来の原料を用いて、肉・魚・卵・乳製品などの動物性食品の味や食感を再現した加工食品、およびそうした食品を積極的に選ぶライフスタイルそのものを指す言葉です。大豆ミート、オーツミルク、植物性バターなどが代表的な例として挙げられ、近年はスーパーやコンビニでも目にする機会が増えてきました。
ここで押さえておきたいのが、ベジタリアンやヴィーガンとの違いです。ベジタリアンやヴィーガンが「動物性食品を制限する」という考え方を軸にしているのに対し、プラントベースは「植物性食品を積極的に取り入れる」という姿勢が中心にあります。動物性食品を完全に排除する必要はなく、これまでの食生活を大きく変えずに取り入れやすい点が、幅広い層に受け入れられている理由の一つです。
牛肉1kgを生産するためには、飼料としてトウモロコシ約11kgが必要とされ、さらに2万リットルを超える水が消費されます。それと比べると、同量の植物性原料を作るためのリソースはずっと少なくて済みます。プラントベース食品は、地球環境への負荷を抑えながら、おいしさと栄養を届ける「食の選択肢の拡張」と言えるでしょう。

(引用:PRO FOODS)
なぜプラントベース食品が必要なのか?
プラントベース食品が注目される背景には、いくつかの構造的な課題があります。
一つ目は、気候変動と畜産業の関係です。畜産業が排出する温室効果ガスは全体の約14%に上ると言われており、牛のゲップに含まれるメタンガスは二酸化炭素の約25倍の温室効果を持つとされています。食生活を少し変えるだけで、温室効果ガスの排出削減に直接貢献できる可能性があるのです。
二つ目は、食料・人口問題です。世界人口は2080年代半ばに103億人に達し、2050年には世界の肉の消費量が現在の2倍になる ともいわれており、タンパク質の安定的な供給は世界共通の課題になりつつあります。植物由来のタンパク源を増やすことは、将来の食料不足に備える現実的な手段として認識されています。
三つ目は、健康への意識の高まりです。植物性食品を中心とした食生活は、糖尿病や高血圧、心疾患などのリスクを低下させるというデータがあります。コロナ禍を経て健康意識が世界的に高まったことも、プラントベース食品の需要拡大を後押ししました。
四つ目は、食の多様性への対応です。宗教的な理由や食物アレルギーなど、動物性食品を食べられない人にとっても、プラントベース食品は重要な選択肢を提供します。一枚の食卓を囲んでも、異なる背景を持つ人々が同じメニューを楽しめる。そんな「インクルーシブな食」の実現という観点からも、その価値は評価されています。
世界と日本の取り組み
世界では、プラントベース食品をめぐる市場と政策の動きが加速しています。
2024年、植物由来の代替肉・シーフード・ミルク・ヨーグルト・アイスクリーム・チーズの世界全体の小売総売上高は、前年比5%増の286億ドル(約4兆円超)に達しました。市場全体を牽引しているのは植物性ミルクで、同年の売上高は184億ドルと全体の最大カテゴリーを占めています。
北米では、ビヨンドミートやインポッシブルフーズといったスタートアップ企業が代替肉の普及を引っ張り、スーパーマーケットでの棚面積も広がっています。欧州では、厳格な環境規制と研究開発支援により進展が見られ、2024年8月に英国が設立した総額1,500万ポンドの「国立代替タンパク質イノベーションセンター」のように、政府主導でイノベーションを支援する枠組みも整備されています。
アジアでも動きは活発です。シンガポールは画期的な培養肉承認を通じて規制面でのリーダーシップを示しており、インドの深く根付いた菜食文化も大きな市場機会を生み出しています。
日本においても、変化は着実に進んでいます。国内市場規模は2025年度に730億円に達するとされており、これは2020年度の265億円と比べて約2.7倍の成長 です。大手食品メーカーの参入も相次いでおり、カゴメ、伊藤ハム、マルコメ、キユーピーなどが独自ブランドで商品ラインアップを拡充しています。コンビニ各社もサステナブルな商品として大豆ミートを継続的に開発・展開しています。
政策面では、農林水産省が「みどりの食料システム戦略」の中で代替食の研究開発を明示し、農林水産省はプラントベースフードのISO規格策定への関与にも取り組んでいます。2020年に設立された「フードテック官民協議会」には、食品企業・ベンチャー・大学・研究機関など約1,600人が参加し、官民一体となって次世代の食の産業化を議論しています。

(引用:Beyond Meet)
私たちにできること。食の選択を少しずつ変える
プラントベース食品は、特別な意識の高さや、厳格な食のルールを求めるものではありません。「今日のメインを大豆ミートにしてみる」「牛乳の代わりにオーツミルクをコーヒーに入れてみる」など、小さな一歩が入り口になります。
大切なのは、完全に置き換えようとしないことです。週に一度、月に数回でもプラントベース食品を選ぶ機会を意識的に作るだけで、食生活の多様性は広がります。肉と植物性食品を半々にした商品、動物性と植物性をミックスしたメニューなど、ハイブリッドな形の商品も増えており、味への違和感も少しずつ解消されてきています。
食品を選ぶときに「この食品はどうやって作られているのか」「どんな環境負荷があるのか」という視点を持つことも、一つの行動です。プラントベース食品を支持することは、その商品を開発・販売する企業へのシグナルにもなります。
また、家族や友人と一緒に試してみるのも楽しいアプローチです。プラントベース食品が単なるダイエット食や健康食ではなく、「おいしくて環境にも良い選択肢」として広まることが、持続可能な食の文化の土台になります。
皿の上から始まる変化
プラントベース食品は、食卓の選択を通じて、農業・環境・社会のあり方に影響を与える力を持っています。一人ひとりがフォークを置く場所が、地球の未来と静かにつながっている。そう考えると、毎日の食事が少し違って見えてくるかもしれません。
「何を食べるか」は、最も身近な環境へのアクションの一つです。プラントベース食品という選択は、自分の健康のためであり、地球のためであり、次の世代のためでもある。そんな食の可能性を、皿の上から少しずつ広げていきましょう。
KENNY
Kenny
Webライター
名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。