Allbirdsのピボットにみるサステナブランドの限界? ——サステナからAIへ。驚きの180度転換
サステナブルファッションの先駆者として、世界中から愛されてきたシューズブランド「Allbirds」。地球に優しいビジネスの代名詞だった同社が2026年4月、前代未聞の発表を行いました。
なんと、靴事業を他社へ売却し、完全に「AIインフラ企業」へと生まれ変わるというのです。
新しい社名は「NewBird AI」。 これまで地球環境への配慮を経営の真ん中に据えていたブランドが、一転して、今最も電力を消費すると言われるAIデータセンター領域へ足を踏み入れる。このあまりにも極端な方向転換は、私たちに「綺麗事だけでは終われないビジネスの現実」を突きつけています。
そもそも「Allbirds」はどんなブランド?
ここで、彼らがこれまでどれほど革新的な挑戦をしてきたかをお話しします。
Allbirdsは、2015年、元サッカーニュージーランド代表のティム・ブラウンらによって立ち上げられました。彼らが掲げた理念は、“to reverse climate change through better business =より良いビジネスを通じて、気候変動を逆転させる”。ニュージーランド産の高級メリノウールやサトウキビなど、天然由来の素材を使った靴は一世を風靡し、私自身もその快適さに魅了され愛用しているファンの一人です。

(引用:Fobes)
そんな彼らをサステナブルシューズブランドの旗手に押し上げたのが、すべての製品に「カーボンフットプリント(CFP)*」を表示したことです。
*カーボンフットプリント(CFP)とは?
CFPは、「その商品が生まれてから捨てられるまでに排出される、温室効果ガスの総量」を数値化したものです。
私たちがスニーカーを買うとき、原材料の調達から、工場での製造、皆さんの手元に届くまでの輸送、そして履き潰して捨てるまでに、どうしてもCO2が排出されます。Allbirdsはそれらすべての過程を計算し、「この靴のCFPは◯kg(CO2換算)」と靴に刻印しました。つまり、食品のカロリー表示のように、「環境負荷を数字で見える化」したということです。

(引用:The Rakish Gent)
全盛期の1%で売られた理念と、ピボット後の株価急騰の皮肉
そんな革新的なAllbirdsでしたが、上場後の経営は苦しかったようです。店舗の急拡大や、不慣れなアパレル分野への進出が裏目に出て、赤字が続いてしまったのです。結果として彼らは、全盛期には約40億ドル以上の価値があった靴事業を、全盛期のなんと1%にあたる、わずか約3900万ドルで売却せざるを得なくなりました。
私が驚かされたのは、その後の市場の反応でした。
「靴を売るのをやめて、これからはAI事業にピボットする。世界中で奪い合いになっているGPU(AIの高度な計算に欠かせない、超高性能な半導体チップ)を買い集めて、新たなビジネスを始める」
そう発表した途端、上場廃止寸前だったAllbirdsの株価は、一時800%以上も急騰したのです。私たちが「地球に優しい靴」を応援していた時には冷ややかだった投資家たちが、「AI」という言葉が出た瞬間に手のひらを返して巨額のマネーを投じました。かつてAllbirdsに投資していた株主たちは、本当に彼らのサステナブルな理念を応援していたのでしょうか。地球の未来を本気で憂いていたのではなく、ただ「ESG」というトレンドに乗り、目先の利益を求めていただけだったのではないか。「AI」という次のブームへ一瞬でマネーが移動した現実を見ると、そんな冷徹な資本主義の本音が透けて見えてしまうようです。
上場企業として「ESG」で株主を満たすことの限界?
この現実を前に、一つの疑問が浮かびました。
果たして、「上場企業として株主のニーズを満たすのは、“サステナ”では無理なのか?」
残酷なようですが、目先の短期的なリターンと爆発的な成長を求める株式市場のスピード感において、ESGを両立させ続けることは極めて困難だった、と言わざるを得ないということでしょうか。
地球に優しい素材を地道に育て、サプライチェーンの歪みを正していくには、どうしても時間とコストがかかります。しかし、上場企業である以上、株主を無視するわけにはいきません。そんな株主から求められるのは、四半期ごとの目覚ましい業績。Allbirdsはそのプレッシャーや期待に応えようと焦るあまり、自滅してしまったようにも見えます。
そこで、環境への取り組みを打ち切り、エネルギーを大量に喰うAIインフラへ舵を切ったことで、ようやく市場から評価された。これはあまりにも皮肉な結末です。
ソーシャルグッドが、かっこよくあるために
上場企業として株主のニーズを満たすには、やはりESGだけでは無理だったのか。資本主義社会である以上、短期的な利益の追求から逃れることは不可能なのか。そんな重い課題を考えさせられます。
私たち「みんちき」も、「ソーシャルグッドはかっこいい!」という合言葉を掲げています。この想いには、もちろん私も共感しています。しかし今回の件は、どんなに素晴らしい理念であっても、経済合理性のかなったビジネスとして成立していなければ、いつか資本の力に飲み込まれてしまうという現実を突きつけました。
あるいは、アウトドア大手の「パタゴニア」のように、理念を守るために「あえて上場しない」というのも、一つの賢明な戦い方です。
「純粋に環境に良いから」生き残るのではない。「ビジネスとして圧倒的に強いから生き残る。そして、強いからこそ地球も守れる」。そんなタフで自立したサステナブルビジネスのあり方を、真剣に模索するフェーズに来ているのかもしれませんね。
MIYAKAWA RYO
宮川 亮
Fridays For Future Yokohama 設立者 / 東京都環境局「DO!NUTS TOKYO」第5期アンバサダー
2004年生まれ、早稲田大学4年生。16歳で環境保護の学生ムーブメント「Fridays For Future Yokohama」を設立。市議やNGOとの意見交換をはじめ、企業への講演や環境系イベントの主催・運営を行う。大学では、子どもの野外環境教育に携わるほか、アジア学生交流環境フォーラム参加、福島原発の視察、能登支援に携わる。活動を通して抱いた問題意識から、ストレスフリーに環境に配慮した行動変容を促すアイデアの社会実装に取り組む。大学の研究助成(24・25年度)、社会起業家支援プログラムに採択されたのち、上場企業に企画提案。 ボーダレス・ジャパン「JOGGO」公式アンバサダー(25年度)。東京都環境局「DO!NUTS TOKYO」第5期アンバサダー。