守るべき自然はどこに?30by30が描くネイチャーポジティブの未来
30by30とは?
「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」とは、2030年までに地球の陸と海のそれぞれ30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする国際目標のことです。日本語では「サーティ・バイ・サーティ目標」と呼ばれます。
この目標は、2021年6月に英国コーンウォールで開催されたG7サミットで合意され、2022年12月の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の中に、世界目標として正式に盛り込まれました。
30by30の達成方法は大きく二つあります。一つは、国立公園などの保護地域を拡張し、その管理の質を高めること。もう一つが、OECM(オーイーシーエム:保護地域以外で生物多様性保全に貢献する地域)の設定です。企業が管理する水源の森、里地里山、都市の緑地など、本来の目的にかかわらず結果として自然が守られている場所が対象になります。
30by30は、生物多様性の損失を止めるだけでなく回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」を実現するための柱と位置付けられています。

(引用:ボトルフリープロジェクト)
なぜ30by30が必要なのか?
30by30が国際的に合意された背景には、深刻な生物多様性の損失があります。 世界の野生生物の個体群は過去数十年で大きく減少し、国連の報告書では、約100万種の生物が数十年以内に絶滅の恐れがあると警告されています。生態系が崩れることは、食料や水、気候の安定といった私たちの暮らしの土台を揺るがすことにつながります。
もう一つの理由は、気候変動との関係です。森林や湿地、海洋などの自然は、CO₂を吸収し、災害を和らげる役割を担っています。生態系を守ることは、脱炭素や気候変動への適応とも直結する取り組みなのです。
さらに、自然そのものの価値を経済や社会に組み込み直す動きも背景にあります。「自然資本」という考え方では、健全な生態系を経済活動の前提として捉え、それを失うことのリスクを企業や行政が評価し始めています。 30by30は、こうした世界的な意識転換の象徴であり、生物多様性と気候、社会の三つの課題を同時に解こうとする統合的なアプローチと言えるでしょう。
世界と日本の取り組み
世界では、30by30を軸にした政策づくりが急ピッチで進んでいます。 ヨーロッパでは、EUが「2030年生物多様性戦略」を打ち出し、域内の陸と海の30%を保護地域に指定する方針を明確にしました。さらに自然再生法案を通じて、劣化した生態系の回復にも踏み込んでいます。
アメリカでも、バイデン政権下で「America the Beautiful」と呼ばれる構想が示され、自然保護や先住民との協働を通じて30by30を進める動きが続いてきました。中国は陸域の生態保護レッドラインを設定し、生物多様性条約のホスト国として国際合意を主導しました。中東では、サウジアラビアなどが大規模な保護区拡大を進めています。
日本では、2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」に30by30が明記されました。現在の保護地域は陸域で約20%、海域で約13%とされ、目標達成にはまだ距離があります。 そこで環境省は、2023年度から民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域を「自然共生サイト」として認定する仕組みをスタートさせました。

(引用:ネイチャーポジティブポータル)
企業の社有林、里山、都市公園など多様な場所が認定され、保護地域と重複しない区域はOECMとして国際データベースに登録されます。「生物多様性のための30by30アライアンス」には、企業・自治体・団体が幅広く参加し、オールジャパン体制が広がりつつあります。
私たちにできること。自然と関わる小さな選択
30by30は国際目標と聞くと、自分の暮らしから遠い話に感じられるかもしれません。しかし、私たちの選択が積み重なってこそ達成できる目標でもあります。
たとえば、地元の里山や公園の保全活動に参加することは、身近な自然を守る具体的な一歩です。自然共生サイトに認定された地域を訪ね、その背景を知ることも、応援につながる行動になります。
買い物の場面でも、できることはあります。生態系に配慮した認証マーク付きの食品や木材を選ぶこと、地元産の食材を選ぶことは、生産地の自然を支える行為です。 旅先で訪れる国立公園や自然保護区でルールを守ることも、保護地域の質を高めることに貢献します。
企業に勤めている方であれば、所属する組織が自然共生サイトの認定を受けたり、30by30アライアンスに参加したりする可能性を探ってみるのも良いかもしれません。小さな関心が、社会全体の自然との関わり方を少しずつ変えていきます。
守る自然から、共に育てる自然へ
30by30は、人類が自然とどう向き合うかを問い直す目標です。 これまで「開発から自然を守る」という発想が中心でしたが、30by30が描く未来は、人の営みの中にも自然を取り戻す姿です。企業の敷地や都市の片隅にも、生きものの居場所が広がっていく。そんな景色が現実になりつつあります。
数字としての「30%」だけを追いかけるのではなく、その中身にこそ意味があります。多様ないのちが循環し、人と自然が互いに支え合う場所をどう増やしていけるか。 それは、地図の上の塗り分けではなく、暮らしのなかの選択の積み重ねによって形づくられるものです。
ふと立ち止まって、近くの森や川、海を眺めてみる。 そこにある自然が、30by30の30%の一部かもしれない。そう想像できる未来は、もう始まっているのかもしれませんね。
KENNY
Kenny
Webライター
名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。