みんなのリーダー vol.3|株式会社Gab代表 山内萌斗

株式会社Gab代表取締役CEO
2000年、静岡県浜松市生まれ
静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中
東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度
同プログラムシリコンバレー研修選抜メンバー
MAKERS UNIVERSITY 5期生 水野雄介ゼミ代表
Forbes Japan contents partner
「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」をミッションに掲げ、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」やエシカルブランドに特化した商品販売・グロース支援・ロールアップ事業「エシカルな暮らし」等、複数のソーシャルビジネスを展開。また、丸井グループ様やセブンイレブンジャパン様など大手企業との協業実績も多数。
「Must Have」なビジネスモデルを目指して
——山内さんが環境問題に対してアクションを起こそうと思ったきっかけを教えてください。
環境問題というスケールの大きなことに関心を持ち始めたのは、2018年に起業家を育成するための「東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT」に参加し、アメリカのシリコンバレーを訪れたとき。
同世代で起業をした人たちの中に「自分が」お金持ちになりたいという人がほとんどいなくて、代わりに、せっかく起業をして人生をかけるならば、人類の存続に「Must Have」なビジネスを作るんだ!ということを言っていたんです。
主語が「自分」ではなく「人類」で物事を考えていることにすごくインパクトを受けて、僕もそういったスケール感を抱きながらビジネスをしたいと思ったんです。
そこから、普段触れる情報の中で何が人類規模で必要なことなのか、今の時代の課題を解決するためには何が必要なのかということを日々探し始めました。
(お話いただいている山内さん)
——衝撃的な話ですね…。そこから山内さんが一番最初に起こしたアクションを教えてください。
シリコンバレーから戻ってきてから、人類規模の課題解決と言っても壮大すぎて、大学1年生ということもあり当初は何もできないような無力感がすごくありました。
なのでまずは自分の周りの課題解決からトライしてみようと、大学2年生ごろからさまざまなアプリやサービスを作ったり、ビジネスコンテストに参加したり、小さなことからアクションを起こすようにしました。
その中で1つだけビジネスコンテストで優勝したビジネスアイディアがあったんです。それが「渋谷のポイ捨てをゼロにする」というアイディア。
大学は静岡の大学に通っていたのですが、「地方の大学生が東京に20日間滞在し、東京の課題を解決する」というビジネスコンテストに参加した際に、渋谷は他の地域よりもゴミが多いことに気がついたんです。
街中で当たり前のようにポイ捨てがあると、それが当たり前になってしまっている人々の「無関心さ」に社会問題性を感じましたし、地域性にもたらす負の影響も感じました。
ずっと続いていることなのに、誰もその課題にチャレンジしない、ならばそこにトライしたいと、街中に広告をつけたゴミ箱を設置するビジネスを始めたのが「株式会社Gab」を立ち上げることになったアクションです。
株式会社Timeeが主催するビジネスコンテストで見事優勝。
株式会社Timeeが主催する、地方の学生が20日間東京で合宿し、ビジネスアイディアを競い合う「Pop Out!」。
山内さんはこのコンテストで、ゴミ箱に企業のPR広告を貼り、そのゴミ箱を渋谷の街中に設置することで、社会課題の解決と、ゴミ箱オーナーの維持管理コストの削減、そしてポイ捨てという環境問題に対しての取り組みをビジネスに取り入れることで見事優勝を果たし、株式会社Gabを設立。
「Global appreciated breakthrough」の頭文字を取った社名。直訳すると「グローバルに評価されたブレークスルー」となり、「地球の救世主」でありたいという想いから決定したそう。
無関心ということが社会問題…。深いですね。ところで起業前は教師を目指していたそうですが、それはどういった経緯からですか?
自分がもともと中学高校の環境に馴染めなかったんです。特に部活。野球部に在籍していたのですが、部活のみんなにあまり貢献できていない自分に無力感を感じていた時期がありまして、自分みたいな人間にも寄り添える人になりたいという気持ちがありました。
その後、高校2年性の時に野球部を辞めて、もともと空手をやっていたので空手部を立ち上げたんですね。そうしたら1つめの大会で準優勝、次の大会では優勝することができた時に、初めて「貢献感」を得ることができたんです。
そこから、日ごろ無力感を感じている生徒たちの役に立ちたいと強く思うようになり、自分の経験を伝えられる教師を目指そうと考えました。
——「自己の達成」というよりも、「他者に貢献」したいという強い気持ちがあったんですね。
ただ、仮に教師になったとして、40年間で担当できる教室は40個が最大値。僕と同じような境遇の人たちをたくさん救いたいなと考えた時に、起業しサービスを作って展開することのほうがより多くの人たちにアプローチすることができると考え、起業家を目指すことにしたんです。
それで、通っていた大学が静岡県の浜松だったのですが、大学1年性の時に、学校教育を変えたいとさまざまなサービスを開発して、浜松市内の4つの高校で実証実験をさせてもらいました。学校や生徒にも満足度の高いサービスを作ることができたと思います。
山内さんの高校教育に対するサービス
学校では黒板に書いたものは授業が終わると消えてしまう。それを動画として保存することで、ほかの生徒や教師と共有し、議論をサポートするようなサービスなどを開発。
その後シリコンバレーに行くことになったのですが、アメリカの教育が日本の何十年も先に進んでいるような印象を受けたんです。
STEM教育といってより専門性を尖らせた教育や、一方通行の授業ではなく、生徒や教師が相互に意見交換をしあうアクティブラーニングがあったりと、僕が日本の学校に提供したサービスが時代遅れなんじゃないかと思うほど。
そして教育問題だけでなく、社会問題にも熱狂しているシリコンバレーの起業家たちを見て、自分も社会視点、人類規模で何かをやりたい!という想いが芽生えたんです。
——山内さんの中にもともと合った「貢献感」と社会課題に向き合うシリコンバレーの起業家の考えがまさにマッチした瞬間だったんですね。
僕が貢献感というものを考え始めたのは15歳の時に出会った、アドラー心理学の「嫌われる勇気」という本を読んでから。この本には「幸せの本質は他者への貢献感である」という言葉があります。
高校の時に部活のコミュニティで悩んでいたのですが、「人や周りのせいではなく、自分で選んでいる」ということが書いてあるのを見て、自分が他者に貢献できる場所を自分で選べばいいことを知ったんです。
本からも学びながら、実際に実践して、シリコンバレーで出会った人たちも同様に考えていることを知り、「他者に貢献する」ことが正しいことなんだと再確認できました。
ビジネスコンテスト優勝後、コロナ禍での逆境
——山内さんの信念の強さが伝わります。帰国後、今の事業「エシカルな暮らし」を立ち上げるまではどのような経緯があったのですか?
それこそ「渋谷のゴミをゼロにする」ということで大学2年生の時にビジネスコンテストで優勝し、その2ヶ月後に起業し、エンジェル投資家からも1,000万円資金調達できたのですが、直後にコロナ禍に入ってしまったんです。
ゴミ箱を使った屋外広告だったので、街中に人がいないと成り立たない。タイミングが悪かったといえばそうですが、その時に一番やっちゃいけないビジネスだったなと。(笑)
(苦しかった当時を笑って思い返す山内さん)
当時は終わりが見えないコロナ禍でプロダクト開発や活動のために資金を使っていたのですが、1年くらい経つと資金残高が100万円を切ってしまったんです。
「やばい。このままだと死ぬ。」と思った時、シリコンバレーで感じたことを思い返したり、「社会性や人類規模の課題解決ができるのか」「今やっていることで他者に貢献できるのか」とすごく悩みました。
起業ってタイミングが命だったりするのですが、そのタイミングを選択したのも自分なので、このタイミングで、なおかつ人類規模の課題解決ができるサービスを考えようと舵を切りました。それこそ会社の存続というよりも、自分の人生をかけて考えないといけないなと。
そこで2つのサービスを同時に作ったんです。
社会問題のハードルを極限まで下げること
1つは、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」。ポイ捨て問題の課題解決の延長線上でたどり着いた事業で、地域コミュニティを巻き込んで楽しくゴミ拾いを実践できるようにできればいいなと思って考えました。
(引用:株式会社Gab公式HP)
清走中
「ゴミ拾い」と「ゲーミフィケーション」を融合させたゲーム感覚ゴミ拾いイベント。
「正しさよりもまずは楽しさ」をかかげ、街中のゴミを集めながらLINEで通達されるミッションをクリアしてポイントを集めることで、楽しくゴミ拾いができるプラットフォーム。
環境団体やセブンイレブンジャパンなど多くの企業ともコラボレーションし、社会単位でゴミ問題の解決に貢献している。
清走中に関しては各イベントの定員を割ることなく、多い時は300人の枠に対して2000人を超える応募があったりと、現在までに3,000人以上が参加するイベントになっていてます。ゴミ拾いを小学生が鬼ごっこをするのと同じくらい当たり前のことのようになってくれたらいいなと思っています。
——ゴミ拾いがゲームに変わる。めちゃくちゃ楽しそうなイベントじゃないですか!
2つ目は、無理なく楽しくエシカル消費が楽しめるプラットフォーム「エシカルな暮らし」。人々が無理なく環境問題にアクションを起こせるようにするために、インスタグラムでの情報発信やECサイトで商品を購入できるようなサービスとして開発しました。
(引用:株式会社Gab公式HP)
エシカルな暮らし
インスタグラムフォロワー6.3万人を抱える日本最大級のエシカルメディアと、環境や労働問題に配慮した「エシカルアイテム」を取り揃えるECサイト。実店舗として「エシカルな暮らしLAB」を東京・有楽町マルイ6階に構える。
エシカルメディアでは読者にわかりやすく、そして無理なく日常で実践できる環境アクションを配信。社会課題解決の敷居を極限まで下げることに取り組んでいる。
ECサイトでは誰もが直観的な買い物を通じて、無意識のうちにエシカル消費を選択できる社会の実現を目指している。
POPUPストアでは作り手と消費者が情報交換をオフラインで行えることで、より良いエシカル商品を開発できるようなオープンプラットフォームとしての役割を担う。
株式会社Gabでは「社会問題解決のハードルを極限まで下げる」ことをミッションとしていて、消費に紐づく社会問題にフォーカスしたいという気持ちもあり、インスタグラムアカウント「エシカルな暮らし」を通じて初心者でも1分あればなんとなくでも理解できるような情報発信をしています。
しかしそれを見てもらった人たちが、じゃあ日常で使用するものを環境に配慮したものに置き換えたい、となった時に、単に情報発信するだけではなく、さまざまなエシカル商品が世の中にはあることを知ってもらうためECサイトを開発しました。
ただ、ECサイトだけではエシカル商品の魅力が伝わりにくいこともあり、とあるきっかけでPOPUPの実店舗「エシカルな暮らしLAB」を出店することにしたんです。
(引用:株式会社Gab公式HP)
その反響がとてもよく、数回出店した結果、有楽町マルイ6階に常設店舗として展開することにしました。
——単にエシカル商品を購入することができる場所、というわけではないですよね。
そうですね。店頭では、エシカルな暮らしのスタッフとお客様、そしてブランド様の垣根をなくして、全員でより良い商品を作るための情報交換ができるコミュニティ型の常設店舗というコンセプトで運営しています。
エシカル商品を開発するブランド様は立ち上げ期の会社さんが多く、自社の店舗が持てなかったり、お客様の声を元にした商品改善の人手が足りなかったり、大きく広告を打つことができなかったりします。
なので、私たちがハブとなり実店舗に多くのお客様にお越しいただき、接客を通じて集められた実際のお客様の声を元に、訴求軸や商品力の改善、より社会課題解決につながるアプローチの提案ができると、エシカルブランド様の課題解決につながるのです。
——規模の大きな視点を持つ山内さんならではの発想ですね。
「正しさではなく、楽しさ」で人は動く
——実際に環境や社会問題に関して情報発信をしている山内さんから、これから実践していく人たちに向けてアドバイスをお願いします。
手前ごとですけれど、やはりインスタグラムで「エシカルな暮らし」をフォローしてもらうことだと思います。
実生活の中での環境問題に対して、かなり噛み砕いた情報発信をしているだけでなく、その結果どういったことが起きているのかなどもしっかりと伝わる内容を心がけています。
毎日投稿している中で、自分が心動かされるものがあれば、それをちょっと深掘りして実践できそうなことからやっていく。
——たしかに具体的な数字も記載されていてものすごくわかりやすいです。
フォローして待っていてもらえれば、僕たちが自動的に情報を発信するので、そこから情報を手に入れてもらうことが一番簡単だと思います。
あとは小売業界の裏側を想像することかなと。小売業にとって品切れほど機会損失なことはなくて、だからこそ大量の在庫を抱えていたりします。ということはそれだけ資源が使われていて、購入されなかったものは廃棄されているんです。
そういったことが分かってくると、消費行動も必然的に変化してくると思います。
とはいえ、低価格で日常生活での便利さを享受できているのは、その構造があってこそです。いち消費者としてその構造を理解しつつ、少しでも廃棄の削減になるお買い物心掛けたり、少しお値段は張ってしまうかもしれませんが、できる範囲で裏側の透明性が担保されていて、買うことで社会課題の解決につながる商品を選ぶ心持ちが大切だと考えています。
何よりも、続くこと、広がることが大事だと思いますので、くれぐれも無理のないように、楽しめる範囲でエシカル消費を実践していけたら良いですね。エシカルな暮らしとしても、全ての人にとって、エシカル消費が当たり前の選択肢となるよう、プラットフォーム構築に尽力します。

KENNY
Kenny
Webライター
名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。