ポリネーター保護とは?
「ポリネーター(Pollinator)」とは、花から花へ花粉を運び、植物の受粉を助ける生きもののこと。日本語では「花粉媒介者」「送粉者」とも呼ばれ、ミツバチやマルハナバチをはじめ、チョウ、ガ、アブ、コウモリ、ハチドリなど、その種類は世界で約35万種にものぼると言われています。
ポリネーター保護とは、こうした生きものたちの生息環境や個体数を守り、生態系の循環を維持しようとする取り組みのことです。背景には、近年世界各地でミツバチや野生のハナバチが急速に減少している現実があります。
被子植物(花を咲かせる植物)の約9割は、受粉を動物に頼っていると言われています。リンゴやイチゴ、メロン、玉ねぎ、アーモンドといった私たちの食卓を彩る作物の多くも、ポリネーターによる花粉の受け渡しがあって初めて実を結びます。
ポリネーター保護は、単に「虫を守る」話ではありません。植物、動物、人間の営みが、見えない糸でつながり合っていることに気づき直す試みでもあるのです。

(引用:環境省 ecojin)
なぜポリネーター保護が必要なのか?
ポリネーターを取り巻く環境は、ここ数十年で急激に厳しくなっています。 背景にあるのは、農薬の影響、気候変動、生息地となる花畑や森林の減少、外来種や寄生虫の侵入など、複数の要因が重なる「複合ストレス」です。
国際的な評価では、世界の昆虫種の約半数が減少傾向にあり、ミツバチやチョウなどの花粉媒介者を含む無脊椎動物のうちおよそ35%が絶滅の危機にさらされているとされています。日本でも、養蜂家の4分の1ほどが蜂群の消失を経験したという報告があります。
ポリネーターの減少が深刻なのは、それが食料生産に直結するからです。世界の主要農作物の4分の3以上は、昆虫や鳥などによる受粉に依存していると言われています。媒介者が減れば、収穫量は落ち、果樹や野菜の価格は上がり、私たちの食の多様性そのものが細っていきます。
もちろん、すべての作物がすぐに失われるわけではありません。しかし、目に見えにくいところで生態系のバランスが少しずつ崩れていくこと。それは、気候変動と並ぶ静かなリスクとして、世界中の研究者や政府が注視している課題なのです。
世界と日本の取り組み
ヨーロッパでは、ポリネーター保護が政策の中心に据えられつつあります。欧州委員会は2018年に「EU花粉媒介者イニシアティブ」を発足させ、2023年には改訂版となる「花粉媒介者のための新たな取り決め(A New Deal for Pollinators)」を発表しました。EU内ではハチやチョウなどの3種に1種が消滅しているとされ、2030年までに減少を反転させることを目標に掲げています。
アメリカでも、2015年に政府が「花粉媒介者保護タスクフォース」を立ち上げ、ミツバチを含む花粉媒介者の生育地保護を目標とした国家戦略を公表しました。広大な農地に対し、農薬規制や蜜源植物の植栽支援が進められています。
アジアやオセアニアでも動きは広がっています。オーストラリアでは、2010年から政府機関と養蜂家、企業が連携し、蜜蜂の健康調査を継続的に実施しています。
日本では、農林水産省が花粉交配用ミツバチの需給調整システムを整備し、各都道府県と連携して安定供給の体制を整えています。環境省も野生ハナバチ類を含めた農薬リスク評価の枠組みを進めており、ポリネーター保護は農業政策と環境政策が交わる領域として位置づけられつつあります。 民間でも、耕作放棄地を蜜源植物の花畑に変える取り組みや、都市部での養蜂プロジェクトなど、地域に根ざした実践が広がっています。

(フリー素材)
私たちにできること。庭先から始まる保護
ポリネーター保護は、大きな政策の話のように聞こえるかもしれません。しかし、私たちの暮らしのすぐそばから関わることができます。
たとえば、ベランダや庭で蜜や花粉が豊富な植物を育てること。ラベンダーやハーブ類、在来の野草など、季節を通じて花が咲く構成にすることで、小さな送粉者たちの食卓になります。家庭での農薬使用を控えることも、目に見えない大きな貢献です。
地産地消の野菜や果物を選ぶこと、有機栽培や環境配慮型の農産物を応援することも、ポリネーターに優しい農業を支える行動につながります。自治体の緑地保全や、企業による都市養蜂プロジェクトに関心を寄せることも、参加の一つのかたちです。
子どもと一緒に身近な虫や花を観察する時間も、立派なポリネーター保護です。「うるさい虫」ではなく「植物を支える働き手」として眺め直すこと。その視点の変化こそ、保全の出発点になるのかもしれません。
おわりに。小さな羽が支える大きな未来
ポリネーター保護は、ミツバチやチョウだけの話ではありません。それは、花が咲き、実がなり、人が食べるという当たり前のサイクルを、未来へつないでいくための取り組みです。
小さな生きものの働きは、普段はほとんど意識されません。しかし、その羽音が止んだとき、私たちが失うものはあまりに大きいのです。
庭の片隅に咲く一輪の花、その上を行き来する一匹の蜂。 そんな何気ない風景こそが、持続可能な社会を支える静かな土台なのかもしれませんね。
KENNY
Kenny
Webライター
名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。