デグロースとは何か?
「デグロース(Degrowth)」とは、経済成長を至上命題としない社会のあり方を目指す考え方です。日本語では「脱成長」や「反成長」と訳されることもありますが、単に経済を縮小させることを目的としているわけではありません。
むしろ、無限の成長を前提とした経済モデルが、環境破壊や格差拡大を引き起こしてきたことへの根本的な問い直しと言えます。
これまでの社会では、GDPの成長が豊かさの指標とされてきました。しかし、経済規模が拡大する一方で、気候変動は深刻化し、生物多様性は失われ、働く人の疲弊や格差も広がっています。
デグロースは、「本当に私たちは、これ以上成長する必要があるのか」という問いを投げかけます。
重要なのは、デグロースが「貧しくなること」を目指す思想ではない点です。物質的な消費や生産を抑えつつ、人間関係や余暇、地域とのつながり、健康といった非物質的な豊かさを重視します。
経済規模の拡大ではなく、生活の質を高めることに価値を置く。そこにデグロースの核心があります。

(フリー素材)
なぜデグロースが注目されるのか?
デグロースが注目される背景には、地球の限界がはっきりと見え始めた現実があります。
気候変動、生物多様性の損失、資源枯渇などの問題は、技術革新や効率化だけでは解決が難しい段階に入りました。いくら効率を高めても、生産と消費の総量が増え続ければ、環境負荷は下がらないという指摘が強まっています。
これまで主流だった考え方は、「グリーン成長」です。経済成長を続けながら、技術によって環境負荷を切り離すという発想です。しかし、現実にはCO₂排出量や資源消費の総量は減りきっておらず、成長と環境負荷の完全な切り離しは難しいとされています。
そこで浮上したのが、成長そのものを前提にしないデグロースの視点です。
また、社会的な理由もあります。長時間労働や過度な競争、成果主義のプレッシャーは、多くの人にストレスや不安をもたらしてきました。
経済が成長しても、幸福感が高まらないという調査結果もあります。デグロースは、こうした「成長しても幸せになれない」という矛盾に向き合い、別の道を探ろうとします。
デグロースは、環境問題だけでなく、働き方や暮らし方、価値観の転換を含む、社会全体への問いかけなのです。
世界と日本におけるデグロースの議論
デグロースは、ヨーロッパを中心に学術分野や市民運動として広がってきました。
フランスやスペインでは、経済学者や哲学者が中心となり、デグロースをテーマにした研究や国際会議が行われています。バルセロナやパリでは、地域経済を重視し、消費を抑えながら生活の質を高める実践も始まっています。
たとえば、労働時間の短縮、地産地消の推進、修理や共有を前提とした経済活動などは、デグロース的な実践の一例です。これらは必ずしも「成長を止める」と宣言するものではありませんが、成長に依存しない社会構造を模索しています。
一方、日本では、デグロースという言葉はまだ広く浸透していません。しかし、人口減少や成熟経済という状況を考えると、実は親和性の高い考え方とも言えます。
すでに日本は、経済成長が鈍化する中で、どう社会を維持し、豊かさを感じられるかという課題に直面しています。
地方でのスローライフ、縮小を前提としたまちづくり、地域通貨やシェアリングの取り組みなどは、結果的にデグロース的な要素を含んでいます。
成長を追い求めるのではなく、規模を適正化し、持続可能性を高める。日本社会が直面する現実は、デグロースの議論に多くの示唆を与えています。

(引用:ベジタスグループ。地産地消の新たな形)
私たちにできること。成長以外の豊かさを選ぶ
デグロースは、政策や経済理論だけの話ではありません。私たち一人ひとりの暮らし方とも深く関わっています。
たとえば、必要以上にモノを買わず、長く使うこと。便利さだけで選ぶのではなく、本当に必要かどうかを考えること。
これらは消費を抑える行動ですが、同時に時間や心の余裕を生み出します。
働き方も重要です。収入を最大化するために長時間働くのではなく、生活に必要な分を見極め、余った時間を家族や地域、自分自身のために使う。
こうした選択は、経済成長の数字には表れませんが、生活の満足度を高める可能性があります。
また、地域とのつながりを大切にすることも、デグロースの実践につながります。地元で生産されたものを選び、顔の見える関係の中で経済を回すことは、過度な生産と輸送を減らします。
小さな経済圏を育てることが、結果として環境負荷の低減にもつながります。
大切なのは、「成長しないと不安」という思い込みから一度離れてみることです。
成長以外にも、社会を支える軸はある。その気づきが、デグロースへの第一歩になります。
成長の先にある問い
デグロースは、簡単な答えを提示する思想ではありません。
むしろ、「これまで当たり前だと思ってきた価値観は、本当に正しいのか」と問い続ける姿勢そのものです。
経済が成長し続けなければ社会が成り立たないという考え方は、長い間、疑われることがありませんでした。しかし今、その前提が揺らいでいます。
限りある地球の中で、どう生きるのか。その問いに向き合うことを、デグロースは私たちに求めています。
豊かさとは、数字の上昇だけで測れるものではありません。
安心して暮らせる環境、信頼できる人間関係、健やかな時間。そうした価値に目を向けたとき、成長を手放すことは、失うことではなく、選び直すことなのかもしれません。
デグロースは、未来を悲観する思想ではありません。
むしろ、持続可能で人間らしい社会を取り戻すための、静かで根源的な提案なのかもしれません。
KENNY
Kenny
Webライター
名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。