カトリンと始めるエシカルライフvol.4|プラスチック大国・日本、海や人に与えている影響とは?
私たちの暮らす地球は、常にさまざまな問題に直面しています。
そのうちのひとつが環境問題です。
お話を聞かせてくれるのは、環境保護活動家でNPO法人HAPPY PLANETの代表を務める宮澤カトリンさん。
この企画では国内外で活動してきたカトリンさんに、環境問題による影響や世界の取り組みについて教えてもらいながら、今、私たちにできることを探っていきます。

ドイツ・ベルリン出身。日本の伝統文化に興味を持ち上智大学に留学。今年で日本在住10年目。
大学在学中に訪れたフィリピンで、台風による甚大な被害を目の当たりにしたのをきっかけに気候変動に興味を持つ。
2022年、環境活動を行うNPO法人HAPPY PLANETを設立。
現在は名古屋を中心に、環境問題に関する講演やボランティアに取り組む。
活動のモットーは「楽しみながら、問題に対する解決策を見つける」。
カトリンさんが驚いた、日本のプラスチック消費量
——来日して、今年で10年目になるカトリンさん。日本人の環境問題に対する意識をどのように感じていますか?
日本に来て最初に感じたのは、他の国に比べて1人あたりのプラスチックの消費量が非常に多いということです。
プラスチックは今や私たちの周りに溢れ、使わない日はないほど日々の生活に欠かせないものになっています。
特に日本はコンビニ文化ですし、来日した当時はレジ袋の有料化が始まる前ということもあり、コンビニでおにぎり1個を買うだけでもおにぎりの包装紙にレジ袋、プラスチック袋入りのおしぼり…と、多量のプラスチック製品を消費していました。
第1位のアメリカに次いで、個人のプラスチック消費量が多い日本。その量は一人当たり年間32キログラムにも上ります。(2018年時点)
世界全体のプラスチックの年間生産量も、過去50年間でおよそ20倍にまで膨れ上がりました。その量、約3.8億トン。これは全人類の体重を合わせたのと同じ量です。
身近なプラスチックごみが、海の生き物の命を脅かしている
——プラスチックの使用によって、地球環境にはどのような影響があるのでしょうか?
最も大きな問題は、海洋環境の悪化です。
捨てられたプラスチックごみの多くは、海や川に流れ込みます。エレン・マッカーサー財団の報告書によると、年間1,100万トン以上のプラスチックごみが海に流れ込んでおり、2050年までに海の魚よりもプラスチックの方が多くなる可能性があると言われています。
特に、漁業から出る漁網やロープなどのプラスチックごみは、重量ベースで大きな割合を占めています。世界で最も多くのごみが漂う北太平洋の海域、通称「太平洋ゴミベルト」では、ごみの約半分が漁業由来のものだったという報告もありました。
こうして海に捨てられた漁具は、「ゴーストギア」として何年も海中を漂い続け、海の生き物に絡まって傷つけるなど深刻な問題となっています。
——つい最近、SNSでプラスチックを誤って飲み込んでしまった生き物の写真を目にしました。
はい。近年は、ウミガメやクジラがビニール袋や漁網をクラゲなどと間違えて飲み込み、消化器官を詰まらせて命を落とす事例が多発しています。
さらに、海や川に流れたプラスチックごみは徐々に小さな破片となり、「マイクロプラスチック」へと変化します。
このマイクロプラスチックは、有害化学物質を吸着する性質を持っています。誤って食べた魚の健康状態を害するだけでなく、食物連鎖の過程で有害化学物質が生き物の体に蓄積されていく恐れがあるのです。
もちろん、魚を食べる私たち人間も例外ではありません。オランダの研究チームによる最新の研究では、人の血液や肺、さらには胎盤や母乳の中からもマイクロプラスチックが検出されています。
ポリエステル素材の服から出るファイバーを吸い込んでしまったり、水道水を通じて体内に入ったりしてしまうこともあります。
驚くことに、「一人当たり、1週間にクレジットカード1枚分(約5g)のプラスチックを摂取している可能性がある」とも言われているんですよ。
自分も気付かないうちにマイクロプラスチックを摂取しているかもしれないと思うと、とても恐ろしいことに感じませんか?日本はもちろんこうしたプラスチック問題に対しては、現在、地球規模での対策が求められているのです。
プラスチックごみ削減のヒントは、ちょっとした工夫と「江戸時代の日本」?
——危機感を感じるものの、プラスチック製品を使わない生活というのはなかなか難しいのが現実です。
私も、今となってはプラスチック製品をなるべく使わない生活を心がけていますが、始めた当初はとても苦労しました。
スーパーで買い物をしようにも、どの商品もプラスチックの容器に入っていて、唯一買えたのは袋に入っていないバナナやリンゴ、キュウリくらい(笑)
これはプラスチック対策に限ったことではありませんが、無理をしても結局は長続きしません。例えば、毎日使う歯ブラシをプラスチックから木や竹でできたものに変えてみるのはどうでしょう?
日本ではまだまだ見かけることが少ないですが、私の故郷のドイツでは町のドラックストアでも気軽に買うことが出来ます。実際に使っていますが、使い心地も快適ですよ!ぜひ試してみてください。
あとは、ごみ拾いのボランティアに参加するのも良いと思います。
(NPO法人HAPPY PLANETによるごみ拾い活動)
私が代表を務めるNPO法人HAPPY PLANETでは毎月ごみ拾いの活動を行っていますし、私個人としても毎日一つでもごみを拾うというルールを設けています。
先日行ったこちらのごみ拾い活動では、過去5年間で最高の171キロのゴミを回収することができました!テレビやゴルフバッグなどユニークなゴミもありましたが、やはり一番多かったのはペットボトルでした。
大切なのは、どんなに小さなことでも取り組みを継続していくこと。まずはマイボトルやマイバッグを持ち歩き、プラスチック製品を手に取る機会を少しずつ減らしてみるのが良いと思います。
——カトリンさんは、昔の日本のライフスタイルにも注目しているそうですね。
少し前に、テレビの特集で江戸時代の日本について知る機会があったのですが、プラスチックができる前の日本はとってもエコだったと学びました!
当時はあらゆるものが基調な時代だったので、どんな資源も循環して使っていたんですよね。
今でいうレジ袋の役割を果たしていたのが、風呂敷。贈り物を包む際にも使われたり、人々の生活に欠かせない物でした。そして着物も、何度も仕立て直して着続けながら、次の世代へと引き継がれていくものだったそうです。
ライフスタイルそのものを当時に戻そうという訳ではなく、再利用できる物を増やすという過去の日本人の考え方を現代でも取り入れていけたら、それはとても良いことなのではないでしょうか。
すでに始まっているサービスもありますよね。例えば、マイタンブラーの持参でドリンクが割引されるカフェや、レンタルできる傘・モバイルバッテリーなど。最近は、シェアサイクルやカーシェアなども広がりを見せています。
今の便利さをなるべく維持しながら「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」のように、仕組みを変え、再利用できる容器やレンタル用品を増やしていく社会をめざしていきたいと考えています。
プラスチックを削減するための取り組みについては、こちらの企画でも詳しく紹介していますので、合わせて読んでいただけるとうれしいです!

NAKAYAMA SAORI
saori
フリーライター
東京都在住。インタビュー記事をメインに活動するライター。前職はテレビ局の記者で、趣味はサッカー観戦(Jリーグ・プレミアリーグ)。最近、美味しいヴィーガンクッキーに出会ったことをきっかけに、ヴィーガン食やサステナブルな商品に興味を持ち始めました!