地域が電力を選ぶ時代へ。エネルギーデモクラシーの可能性
エネルギーデモクラシーとは?
「エネルギーデモクラシー」とは、エネルギーの生産や供給、意思決定のプロセスに市民や地域社会が主体的に関わる仕組みや考え方を指します。
これまで電力やガスといったエネルギーは、大規模な発電所や大企業によって集中的に管理されることが一般的でした。利用者は基本的に「選ばれた電力を購入する側」であり、発電方法や投資の方向性に関わる機会はほとんどありませんでした。
しかし、再生可能エネルギーの普及や電力自由化の進展により、エネルギーのあり方は変わり始めています。太陽光や風力といった分散型電源は、地域単位での導入が可能であり、市民出資や自治体主導での発電事業も実現しやすくなりました。
エネルギーデモクラシーは、こうした技術的変化を背景に、「エネルギーを誰が決め、誰が利益を得るのか」を問い直す動きです。
単に電源を再生可能エネルギーに切り替えるだけでなく、その運営や収益の配分、意思決定の透明性までを含めて考える点に特徴があります。
エネルギーを社会の共有財産として捉え、民主的に管理する。そこに、この概念の核心があります。
なぜエネルギーデモクラシーが求められるのか?
エネルギーは、私たちの暮らしと経済を支える基盤です。その供給体制が一部の企業や国に集中している場合、価格や政策の影響を大きく受けることになります。
また、化石燃料に依存したエネルギー構造は、気候変動を加速させる要因となってきました。
エネルギーデモクラシーが注目される理由の一つは、脱炭素化と地域経済の活性化を同時に実現できる可能性があるからです。
たとえば、地域で太陽光や風力発電を導入し、その収益を地域内で循環させることで、雇用創出や公共サービスの充実につなげることができます。外部企業へ流れていた利益を、地域に留める仕組みが生まれます。
もう一つの理由は、エネルギーの公平性です。
エネルギー価格の高騰は、低所得世帯にとって大きな負担となります。市民が発電事業に参加し、意思決定に関与することで、価格設定や支援策をより公正に設計できる可能性があります。
さらに、災害への備えという観点も重要です。大規模集中型の発電所に依存していると、災害時に広範囲で停電が発生します。一方、地域分散型の電源は、非常時のレジリエンスを高める役割を果たします。
エネルギーデモクラシーは、環境問題だけでなく、地域の自立や安全保障にも関わるテーマなのです。

(引用:資源エネルギー庁)
世界と日本の取り組み
エネルギーデモクラシーの実践は、ヨーロッパで特に進んでいます。
ドイツでは、再生可能エネルギーの普及を後押しする政策のもと、市民エネルギー協同組合が多数誕生しました。地域住民が出資し、風力や太陽光発電を運営する仕組みが広がり、一時は再エネ設備の半数近くが市民や地域主体によって所有されていました。
デンマークでも、風力発電の多くが地域住民の共同出資で建設されています。発電設備が地域の景観に影響を与える場合でも、住民が利益を共有できることで合意形成が進みやすくなっています。
こうした事例は、エネルギー政策が民主的に運営される可能性を示しています。

(引用:Enargy Democracy)
日本では、東日本大震災以降、エネルギーのあり方を見直す動きが強まりました。固定価格買取制度の導入により、地域主導の再生可能エネルギー事業が増加しました。
各地で市民出資型の太陽光発電所や小水力発電が立ち上がり、収益を地域活動に活用する例も見られます。
また、自治体が地域新電力会社を設立し、公共施設への電力供給や地域経済の循環を図る取り組みも広がっています。
まだ欧州ほどの規模ではありませんが、エネルギーデモクラシーの芽は着実に育ちつつあります。
私たちにできること。エネルギーを「選ぶ」意識を持つ
エネルギーデモクラシーは、特別な専門家だけの話ではありません。私たち一人ひとりの選択が、その方向性を左右します。
まずは、自分がどの電力会社から電気を購入しているかを確認すること。再生可能エネルギー比率の高い電力プランを選ぶだけでも、エネルギー市場にメッセージを送ることになります。
地域で市民出資型の発電プロジェクトがあれば、参加を検討するのも一つの方法です。少額から出資できる仕組みも増えており、エネルギー事業の担い手になることも可能です。
また、自治体のエネルギー政策に関心を持ち、意見を届けることも大切です。公共施設の再エネ導入や省エネ施策など、市民の声が反映される場面は少なくありません。
エネルギーは「与えられるもの」ではなく、「選び、関わるもの」へと変わりつつあります。その意識の転換が、エネルギーデモクラシーを支える土台になります。
電力の先にある社会の姿
エネルギーデモクラシーは、単なる電源の話ではありません。それは、社会のあり方を問い直す視点です。
誰が決め、誰が利益を受け取り、誰が負担を背負うのか。その構造を透明にし、参加可能にすることが重要です。
再生可能エネルギーの拡大は、脱炭素への道筋を示します。しかし、その運営が民主的でなければ、本当の意味での持続可能性は実現しません。
エネルギーの選択は、未来の社会への選択でもあります。
地域が主体となり、市民が関わる仕組みを育てること。それが、より公正で強靭な社会を築く第一歩になるのではないでしょうか。
電気のスイッチを入れるたびに、その背景を想像する。そこから、エネルギーデモクラシーは始まります。
KENNY
Kenny
Webライター
名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。