教えて!高津先生!vol.4|日本もったいない食品センターとecoeat(エコイート)
NPO法人日本もったいない食品センターの代表理事である高津さん。食品ロスや貧困の減少を目的として同NPO法人だけでなく食品販売店のecoeatを運営していますが、そもそもなぜ現在の活動を行うようになったのか、今回はその背景と活動に対する想いについて伺いました。
愛媛県川之江市で生まれる。神戸の高校を卒業後、海上保安学校に入校、9年勤めたあと退官し、会社設立(総合商社)。 商社の業務で食品ロスの現状を目の当たりにする。商社で行っていた慈善事業(災害救援物資支援、生活困窮者支援)を引き継ぎ、2017年2月食品ロス削減と生活困窮者支援(貧困解決)に向けたNPO法人日本もったいない食品センターを設立。
——現在「NPO法人日本もったいない食品センター」や「ecoeat(エコイート)」を運営されていますが、それ以前はどのようなことをされていらっしゃったのですか。
——天職だとおっしゃられるほどの仕事を辞めてまで次にやろうと思ったことはどういったことだったのでしょう?
遠方に転勤になることが決まり、ちょうど妻と妻のお母さんが役員に入って立ち上げたばかりの会社があったのですが、遠方転勤となるとそちらを手伝うこともできなくなるため、海上保安庁を退職し、その会社に専念することにしました。
(当時を振り返りながらお話しする高津さん)
国家公務員から総合商社経営へとシフトチェンジ
——家系の皆さん同様、高津さんも独立したわけですね。会社ではどのようなことをされていたのですか?
株式会社グッディアといって、総合商社として国内外から輸入や仕入れたものを販売する会社です。いろいろと紆余曲折ありましたが、会社を立ち上げて今年で20年になります。
はじめは海外で仕入れて国内で販売していましたが、国内でも取引や取り扱うジャンルも増えていきました。その中に食品があったんですね。食品って製造元は儲かりますが、卸売をする会社からしたら薄利多売なんです。
大量に仕入れて単価を下げても、卸売は送料元払い。しかも少量ずつ卸していったら利益がものすごく少ない。なのであまり食品の取り扱いはしていなかったんです。
仕入れは取引先から毎日たくさんのメールが来て、その中から良さそうなものを仕入れたりするんですけど、中には自分が知っている食品があったりするんですね。しかも賞味期限が残り短いからものすごく安い。
しかしロットが大きいので仕入れても今度は販売先が確保できないので、どうしようかなと。でも魅力的な食品なので、仕入れ先に小ロットでもいいか相談したところ、最初の条件じゃないとダメだと断られたんです。
——ロットが大きく、かつ賞味期限が短い食品の卸売はなかなかシビアなんですね。
そうですね。で、その後その食品がどうなったか気になったので仕入れ先に聞いてみたら、「売れなかったので捨てました。」と言われたんです。捨てるくらいならタダでちょうだいよって思うじゃないですか。でもそうなると今度は送料の問題がある。
なので廃棄した方がコストがかからない、という結果になるんです。とてももったいないなと。
——利益を出すための会社経営ですからね…。にしてもやはりもったいないです。
そうこうしているうちに、また似たような内容の条件があったんですね。前回は無理だったから今回もと決めつけずに、改めてどうにかできないかと。利益は出なくていいから赤字にならないようにしようということで、どうせ売れ残ってしまうことがわかっていたから、最初からその分を寄付することにしたんです。
寄付する先もいろいろ調べているうちに、自分たちが生活する日本にも貧困が存在することを知ったんです。
——それが今の活動につながってきているわけですね。
当時の私は日本にそんなに貧困のイメージがなくて、貧困なんて遠い国の話だと思っていたんですね。でも寄付する施設を調べている中でこんなにも貧困で困ってしまう人たちがいるということが衝撃で。
私たちは総合商社としてさまざまなものを安く仕入れる力を持っていて、ものを必要だという人たちがいることを知ったならば、自分たちが何かをしなければいけない、という使命感が湧いたんです。
(引用:日本もったいない食品センターHP。啓発活動と、さまざまな施設や団体、個人の方などに食糧支援をしている様子)
「食品ロス」と「貧困」。今に繋がる思想原点
そんなこんなで、廃棄されるくらいなら、そしてそれを必要としている人がいるならば定期的に寄付をしていこうということで、2015年の末ごろから総合商社の慈善活動として現在の活動が始まったんです。
慈善活動を行っている中で、たくさんの慈善団体関係の方や社会福祉協議会や市役所の方とかと出会い、「高津さん、この活動をNPO法人化すればいいじゃないですか?」と勧められたんです。
賞味期限が近いものや切れたものを商社が取り扱っていたらイメージも悪いし、もちろん食品に関してものすごく勉強して知識もありましたが、当時は普通の会社がそのようなものを寄付しても支援として受け入れてくれないところも多かったのもあり、2017年の2月に「NPO法人日本もったいない食品センター」の設立に至りました。
NPO法人にほんもったいない食品センターとは
「かたや食品が余ってしまい、かたや食事を摂れない方がいる」。この凸凹をなくすために、食品ロスの減少、地域の貧困の減少を目的にまだ美味しく食べられるのに捨てられてしまっている食品を、食料が必要な地域、団体、個人に配布するとともに、賞味期限や消費期限、食品ロスについて正しい知識を身につけてもらうための啓発活動を行う。
https://www.mottainai-shokuhin-center.org/
——会社としての慈善活動がそのままNPO法人に活かされているということですね。高津さんが食品ロスと貧困に気づかなければ、今には繋がっていなかったと考えると巡り合わせのように思えます。
知識がなかったころは時代背景もそうですが、賞味期限が切れたものなんて捨てなきゃしょうがないだろ、て思ってましたし、私自身も食べなかったです。
でも賞味期限ってなんだろうと調べていくうちに、「賞味期限って消費期限と違い、切れても取り扱いに関して法的にも問題ないし、実際に美味しく食べられるんだ。」ということに気づきましたし、ましてや賞味期限が切れる前のものまで廃棄されているなんておかしい、と思ったんです。
取り扱うならば、誰に何を聞かれてもきちんと答えられるように勉強して、賞味期限切れのものでも安全に美味しく食べられることを伝えながら、支援を開始しました。
それこそNPO法人を立ち上げる前は会社で送料なども負担していたので、会社少しずつ苦しくなっていたんですけどね。(笑)
自走可能なNPO法人のために生まれた「ecoeat」
——NPO法人自体も利益は出せないですもんね…。
そうです。お金も出ていく、そして時間もなくなっていく。経営者として一番なってはいけないことに陥りまして。
でも慈善活動は続ける必要があるため、自分たちで稼ぎ続けられるようにしなければいけない。どうしたらいいかとまた考えた結果、NPO法人を維持するため、食品ロスを抑えるためにも必要なものとして2019年に「ecoeat」を立ち上げることになったんです。
——NPO法人を維持するためにもecoeatは一役買っているんですね。一番最初のecoeatはどこに作ったんですか?
大阪市福島区にあるJR野田駅のすぐ近くにテナントで入りました。今は建て壊されてマンションが建設されて移転し、同じ福島の吉野にお店があります。
移転も当時の家主が知らない間に倒産していて、そこを買い取った企業から立ち退きのような形で移転することになりまして、ここでもまた山あり谷ありでした。(笑)
(引用:日本もったいない食品センターHP。移転した1号店にあたる福島吉野店)
——他のスーパーとは違う、ecoeatの魅力はどういったところにありますか?
1年を通してほとんど同じ商品がないことがecoeatの魅力ですね。世の中の定番商品って廃棄になりにくく、私たちが取り扱うのは季節や期間限定商品で売れ残ってしまったものが多いので。なので季節が変われば商品が変わりますし、ほとんどのお店って目的買いじゃないですか。ecoeatは来るたびに違った商品を探せる楽しみもあります。
——足を運ぶたびに違った商品を発掘できる楽しみがあるわけですね!
もちろんデメリットもあって、スーパーのようにすべてが揃わない。そういう面では近所のスーパーに寄った帰りにecoeatに寄ってもらったり、その逆があったりとうまく活用して楽しんでもらえたらいいですね。賞味期限前後のものでも、まだまだ美味しく、そして安く手に入る。これは食品ロスにも大きく貢献することですし。
地域密着で食糧支援ができるように
——今後も店舗を展開されるということですが、ecoeatを展開するにあたってどのような気持ちで広めていこうとしているのかお聞かせください。
ecoeat事業は本部の日本もったいない食品センターの一環として展開していて、ecoeatの加盟店は本部の食糧支援活動も行なったもらい、地域に貢献してもらうことが前提なんですね。本部は食糧支援などを全国広く浅くしているわけですけれど、ecoeat加盟店さんは地域により濃く支援をしてもらうためにもあります。
なのでecoeatの加盟店さんはその地域の貧困ゼロを目指して欲しいですし、そのためにもっとecoeatが日本各地にできるように展開を進めています。
(引用:日本もったいない食品センターHP。路面店だけでなくショッピングモール内にも店舗を展開)
食品ロスと貧困を減少させるために
でも、食糧支援活動をするにもお金がかかりますよね。そして食糧支援活動はたとえecoeatが赤字になってもやる。だからこそ経営をしっかりと行いながら、食品ロスのための啓発を店舗にくるお客さんとコミュニケーションをとりながら行なっていく、非常に難しい中で、加盟店さんにはecoeatにファンができるようにがんばってもらっています。
各地域にecoeatのような拠点ができれば、食糧支援活動にかかる運送費の負担も減らせますし、地域の食料品会社さんや行政とも手を組んで支援ができるようにもなりますし、食品ロスを減らせるようにもなります。
そしてecoeatで食品を購入することで食品ロスの減少につながり、食糧支援活動の負担が減り、お客さんは安価に食品が手に入る。こういった持続可能なサイクルができるような店舗が増えて欲しいし、利用するお客さんももっと増えて欲しいと思います。
KENNY
Kenny
Webライター
名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。