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循環型社会の鍵。「マテリアルパスポート」が拓く未来

Kenny
| 2025/10/25
マテリアルパスポートとは、建材や製品に関する素材情報を記録・共有する仕組み。再利用を促進し、資源循環型社会の実現を支える新しい考え方です。

マテリアルパスポートとは何か?

近年、環境や資源の分野で注目を集めているキーワードに「マテリアルパスポート(Material Passport)」があります。直訳すれば「素材のパスポート」。つまり、建物や製品を構成する素材の情報を記録し、再利用や再資源化を容易にするための仕組みです。

たとえば建築物には、コンクリート、鉄、木材、ガラス、プラスチックなどさまざまな材料が使われています。従来は建物を解体する際、どの素材がどこに、どのような状態で使われているのかを把握するのが難しく、多くの部材が廃棄されてきました。
マテリアルパスポートは、こうした情報をデジタルで一元管理し、再利用可能な資源として次のプロジェクトへとつなぐことを目的としています。

この考え方は「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の実現に欠かせない要素です。モノを「使い捨てる」社会から、「再び使う」社会へと移行するためには、まず素材そのものの“履歴”を把握することが重要になります。
マテリアルパスポートは、まさにその“素材の記録簿”として機能するのです。

 

(引用:サーキュラーエコノミーハブ

なぜマテリアルパスポートが重要なのか?

私たちは今、深刻な資源制約と廃棄物問題に直面しています。世界では年間約920億トンの資源が消費され、そのうち再利用されているのはわずか8%に過ぎません。特に建設業は、世界の資源消費量の約半分を占め、膨大な廃棄物を生み出す分野でもあります。

建物の解体で発生するコンクリートや鉄、木材の多くはリサイクルされず、埋め立てや焼却に回されます。これにより、エネルギーの浪費とCO₂の排出が増え、環境負荷が高まっているのです。
マテリアルパスポートが導入されれば、建物のどの部材が再利用可能で、どの程度の性能を持つかを事前に把握できるようになります。その結果、解体ではなく「分解と再構築」が可能になり、廃棄物の大幅削減が実現します。

さらに、マテリアルパスポートは資源循環だけでなく、経済の新しい価値創出にもつながります。素材データを共有することで、企業間での再利用取引が容易になり、「資源のマーケットプレイス」が生まれます。
また、素材の由来や環境負荷を明示することは、企業のサステナビリティ報告やESG投資の観点からも重要です。消費者や投資家が透明性を求める時代において、素材情報の開示は信頼の証でもあります。

 

世界と日本における取り組み

マテリアルパスポートの概念は、ヨーロッパを中心に発展してきました。特にオランダでは、政府が「2050年までに完全な循環型経済を実現する」という目標を掲げ、建設分野でのマテリアルパスポート導入を進めています。
代表的な事例が、アムステルダムの「サークルビル(The Circl Building)」です。この建物では使用したすべての素材情報をデジタル化し、将来の再利用を前提に設計されています。部材は分解可能で、リサイクル率を最大限に高める構造になっています。

また、EU全体でも「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」の導入が進められています。これは製品の原材料や製造プロセス、リサイクル適性などの情報をQRコードやデジタルIDで管理する仕組みで、マテリアルパスポートの発展形とも言えます。今後は家電や衣類など幅広い分野に拡大する見通しです。

日本でも、建設業界やメーカーを中心に動きが出始めています。国土交通省は「建設リサイクル推進計画」において、建材情報のデジタル管理を視野に入れた取り組みを強化。民間では、竹中工務店や大成建設などが、建築物の素材情報をBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)と連携して記録する実証を進めています。
一方、製造業やファッション業界でも、素材トレーサビリティを重視する動きが加速。環境に配慮した製品づくりを進めるうえで、マテリアルパスポートの活用が注目されています。

(引用:竹中工務店

 

私たちにできること。素材の“行方”を意識して暮らす

マテリアルパスポートというと、大企業や建設業の話のように思われるかもしれません。しかし、私たち一人ひとりの暮らしとも無関係ではありません。

まず意識したいのは、「ものを選ぶ段階で素材に目を向ける」ということです。再生素材を使った製品や、修理・再利用を前提に設計されたものを選ぶことで、資源循環に参加できます。最近では、素材情報や環境負荷を開示する製品が増えており、それを選ぶ消費者の行動が企業の取り組みを後押ししています。

また、不要になったモノを廃棄せず、リユースやリサイクルに回すことも立派な一歩です。自治体や企業が運営する「素材バンク」や「アップサイクルサービス」を活用すれば、まだ使える資源を社会に戻すことができます。

さらに、地域単位でマテリアルパスポートの考え方を広げる動きもあります。たとえば、公共施設や学校で使用する建材を記録・管理し、次の建設に再利用する仕組みを構築する自治体も出てきました。地域ぐるみで「資源の循環経済圏」を築くことができれば、持続可能な社会の実現に一歩近づくでしょう。

私たちの選択が、「資源を使い切る社会」から「資源を生かす社会」へと変える力を持っています。

(引用:環境省

 

資源を未来へつなぐ新しいパスポート

マテリアルパスポートは、単なる技術的な仕組みではありません。それは、資源をどう使い、どう次世代につなぐかという社会全体の価値観を問い直すものです。

いま地球規模で求められているのは、限りある資源をできる限り長く、何度も循環させること。そのためには、素材の「見える化」と「共有化」が欠かせません。マテリアルパスポートは、その実現に向けた重要なツールです。

そして、すべてのモノが「終わり」ではなく「次の始まり」へとつながる世界。そこでは、建物も、服も、家電も、それぞれの素材が“再び生まれ変わる道”を持っています。

あなたの手にある製品にも、いつか「素材のパスポート」がつく日が来るかもしれません。そのとき、私たちはようやく「使い捨てない社会」の入口に立てるのではないでしょうか。

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| 2025/10/25
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Webライター

名古屋市在住。 グルメメディアのライター/エディターとして活動するかたわら、環境問題にも取り組むITプロダクト会社に勤務。 持続可能なデジタル社会に興味を持ち、Web3分野を勉強中。

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